| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-206 (Poster presentation)
野生哺乳類は,基本的に直接観察や捕獲を頻繁かつ長期的に実施することが困難であり,生態学的なデータの採取には多大なコストとリスクが伴う.また,人や調査機器が立ち入ることで対象動物にストレスを与える可能性や,その結果,自然本来の情報を取得できなくなることも課題となっている.こうした背景から,野外での生態調査手法として,対象動物に極力影響を与えずに,長期に渡るデータ取得を可能にするための技術開発が求められている.
本研究では,ケーブルを介した遠隔操作によって低侵襲的に移動し,必要な生態情報を取得できる小型ロボットの開発に取り組み,通電によって無音で収縮する形状記憶合金アクチュエータを用いて,形状変化を起こしながら移動する超静音脚式移動ロボットを開発した.
対象は冬眠中のツキノワグマを想定し,その冬眠穴内での使用を前提としている.ツキノワグマは,国内外で獣害被害が報告されるとともに,日本国内においても絶滅リスクが懸念される個体群が存在し,保護および管理の面で注目されている.
重量はケーブルを除いて30[g],非動作時の外形寸法は195×96×49[mm],動作時には178×102×41[mm]とコンパクトに設計されている.本機体は10[deg]の斜面を走破できる性能があり,また平地では22[g]の錘を載せて走破できる性能があることも確認された. 今後,上部に搭載する観察装置として,夜間や低照度環境下での対象動物の活動記録を可能にするための,軽量な赤外線カメラの導入を予定している.
本研究は,将来的にはツキノワグマ以外の大型哺乳類など,他の野生動物の調査にも応用可能なシステムへの拡張を視野にいれたものである.低侵襲性,低照度環境下,遠隔操作,堅牢性という条件をすべてクリアするべく,冬眠中のクマの調査を始め様々な環境で活用することを最終的な目標に据えて当ロボットの開発を進めていきたい.