| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-207  (Poster presentation)

海藻藻場及び磯根資源の将来予測【O】
Predictions of seaweed distribution and abalone【O】

*須藤健二, 島袋寛盛(水産研究・教育機構)
*Kenji SUDO, Hiromori SHIMABUKURO(FRA)

 気候変動による海水温上昇によって、沿岸域の藻場生態系では、温度による直接的な影響に加え、植食性動物の増加などによる磯焼けが発生している。多くの海藻が磯根資源や沿岸性魚類の生産へも関係していることからその影響も懸念される。このため、気候シナリオ別に海藻分布の将来予測を行い、適応策に検討することを目的とした。なお、本研究は環境研究総合推進費(JPMEERF20S11809)の一環として行われた。
 海水温のモデルは、日本近海域2km将来予測データ(FORP-JPN02 V4)より、MIROC5及びMRI-CGCM3のアンサンブリングを用いた。FORP-JPN02の各モデルの数値は、Historicalデータから2001~2005年、RCP2.6からは2086~2100年、RCP8.5からは2041~2055年及び2086~2100年における平均値を用いた。また、衛星による実測値を用いてバイアス補正を行った。海藻の種ごとの分布情報については、現地調査及び文献情報を用いた。藻場は岩礁の基質に生育することから、環境省の自然環境保全基礎調査を用いた。
 三陸沿岸において、マコンブの分布適域がRCP8.5の2090年代には消失し、またキタムラサキウニの分布適域が北上し海藻への捕食圧が低下することで、アラメ場へ移行していくと予測された。しかし、RCP8.5の2100年の場合、アイゴの分布域拡大に伴い磯焼けが発生すると予測された。東北では将来漁獲対象の転換も必要な可能性がある。また、海藻は分散速度が遅いことから、寒海性から暖海性の種への置換が起こるまでの間、植食性魚類による磯焼けが発生する可能性が示唆された。藻類に関連する漁業経営体数の減少率が高く、カーボンクレジットによる副次的な収入の確保や、漁業者の就業支援対策をはじめ、都市部から移住を促進する政策も重要と考えられる。


日本生態学会