| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-209 (Poster presentation)
食料供給は最も基本的な生態系サービスの一つである。現代では冷蔵・冷凍技術や輸送網の発達により、遠く離れた場所で生産された食材が食卓に数多く並ぶ。しかし、それ以前の社会、特に農山漁村では、自給の農作物や野生食材(山菜・きのこや水産物)など地域で生産された食料が日常的に消費されてきた。このため、各地の食文化は地域の自然環境や生物多様性との関わり(生物文化多様性)を色濃く反映して形成されてきたと考えられるが、食文化を生態系との繋がりの観点で評価した広域研究は限られている。
本研究では、日本各地の食文化とその地域の生態系との関係を明らかにするために、約100年前(昭和初期頃)の全国の日常食の分析を行った。全都道府県を対象とした当時の食事の聞き書き調査の結果をまとめた「日本食生活全集」(1984-1992、農文協)を用いて、文献内の記述や図表から、各地の日常食で季節ごとに用いられた食材とその入手源を調べた。本発表では、収載されている約300地点のうち、データクリーニングが完了した約250地点を対象に分析した結果を報告する。入手源はまず地域外からの「購入」と地域内での「自給」に分け、自給の場合はさらに9種類の景観要素(「水田」、「畑地」、「農地周辺」(畦畔など)、「屋敷周辺」(庭、垣根など)、「山野」、「河川」、「湖沼」、「潮間帯」、「海域」)と「家畜」の計10カテゴリに整理した。購入食品の割合が高い都市部を除く地域では、自給に寄与する景観要素が多いほど、食材の種類が豊かになる傾向が見られた。さらに自給に寄与する景観要素の地域・季節ごとの変化と気候・地形要因などの関係を検証した。