| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-211  (Poster presentation)

アジアゾウにおける採食エンリッチメント【A】【O】
Feeding Enrichment for Asian elephants【A】【O】

*山中純鈴(神戸大学)
*Sumire YAMANAKA(Kobe Univ.)

飼育環境は単純で変化に乏しいため、飼育動物は異常行動や繁殖障害、発育障害を引き起こす。そのため近年、動物福祉の観点から飼育動物の幸福な暮らしを実現する「環境エンリッチメント」が注目されている。アジアゾウ(Elephas maximus)において、給餌のタイミングを野生環境に近づけ、予測不可能にすることで常同行動の頻度が減少する可能性が示唆されている。本研究では、京都市動物園において、アジアゾウの飼育環境の改善を目的とし、給餌時刻をランダムにすることで、より野生に近い飼育環境の再現を試みた。
対象は京都市動物園のアジアゾウのメス4個体である。2023年11月24日~12月11日の約2週間をコントール条件1とし、現状の飼育条件と同じ、毎朝6時30分にフィーダーを用いて給餌を行った。2023年12月12日〜2024年1月22日の期間、予測不可能条件として、給餌時刻を朝5時〜8時の間で30分単位のランダムな時刻に設定した。予測不可能条件期間終了後の2024年1月23日~2月5日の期間を朝6時30分に給餌されるコントロール条件2とした。ゾウ舎に設置された監視カメラの映像データ(合計1480時間)を元に、10分毎の瞬間スキャンサンプリングで行動解析をし、各行動の時間割合の変化を調査した。行動は横臥休息、立位休息、採餌、常同行動など12種類に分類した。
統計解析の結果、1個体においてコントロール条件1と比較してエンリッチメント条件(P=0.010)およびコントロール条件2(P=0.028)において常同行動の頻度が有意に増加したが、他の3個体では有意な差は認められなかった。この結果から、給餌時刻の予測不可能性の増加が福祉向上に寄与しなかったことが示唆される。また、野生のアジアゾウは1日の約9割の時間を採餌に費やしているため、給餌時刻をランダムに設定するよりも、採餌に費やす時間を長くするようなエンリッチメントを行った方が効果的であることが示唆された。


日本生態学会