| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-219  (Poster presentation)

野生植物資源利用に関する知識と経験の相互作用【O】
Interaction between knowledge and experience of using wild plant resources【O】

*小柳知代(東京学芸大学), 古川拓哉(森林総合研究所), 松浦俊也(森林総合研究所), 小山明日香(森林総合研究所)
*Tomoyo KOYANAGI(Tokyo Gakugei University), Takuya FURUKAWA(FFPRI), Toshiya MATSUURA(FFPRI), Asuka KOYAMA(FFPRI)

地域に伝わる野生種の持続可能な利用に関する生態学的知識(地域知、LEK: Local Ecological Knowledge)は、生態系の管理や生物文化多様性の保全に不可欠だが、その衰退は世界的に加速している。本研究では、世代間での野生植物資源利用(食用)に関する知識と経験の保有状況とその背景を明らかにするため、日本のユネスコエコパークに指定された2つの農村地域(福島県只見町と山梨県小菅村)における児童(10~12歳)とその家族、および学校教職員を対象としたアンケート調査を実施した。両地域それぞれ60種以上の野生山菜・木の実を対象に、各個人が食べられることを知っている種の数(知識の豊かさ)と、過去に採ったことがある種の数(経験の豊かさ)を集計し、年齢、性別、家族構成、幼少期の自然体験、野生植物の採集や食事の頻度との関係を分析した。共分散構造分析(SEM)の結果、知識と経験の豊かさには、強い相互関係が認められた。また、現在の採集や食事の頻度は、知識と経験の豊かさに正の影響を与えていた。子どもたちの間では、家族構成(祖父母世代との同居または近居)が、野生植物を食べたり屋外で遊んだりする頻度を高め、間接的に知識と経験の豊かさを高めていた。今回の結果から、地域知を継承していくためには、単に知識として学ぶだけでなく、実際に採ったり食べたりという経験を伴うことが重要であることが示唆された。そのためには、学校現場での地域の食文化に関連した環境教育プログラムの導入が期待されるが、教職員へのアンケート結果からは、教師側の知識不足が、野生植物を取り扱う上で課題となっている可能性が示唆された。豊かな知識を有する祖父母世代など地域のキーインフォーマントとの協働をはじめとした学校と地域の連携促進が求められる。


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