| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-222 (Poster presentation)
森林の再生は、地球温暖化や生物多様性の損失などの社会課題に対する有効な手段として注目を集めている。多くの森林再生プログラムでは、単一の造林樹種からなる人工林を造成している。一方、多様な種組成・構造からなる自然林は多面的機能を有することから、とくに自然林を再生する重要性が近年指摘されている。自然林再生の効率化に向けては、植林方法や天然更新補助など様々な検討が行われているが、すでに造成された数多くの人工林を活用した自然林再生については十分に検討されていない。
そこで、本研究では北海道・知床国立公園の森林再生地を対象に、森林景観モデルiLandを用いて、単一人工林が自然林に近付く可能性を長期的に評価した。撹乱影響下では、人工林の上層木が破壊され、人工林内部で多種の天然更新が促進されることで、人工林がより早く自然林に置換されるとの仮説を立てた。人工林の周囲に自然林が存在することを仮定し、風倒撹乱の有無、人工林の植栽種・植栽密度を変化させたシナリオごとに、300年間のシミュレーションを実施した。自然林の種組成と構造を参照し、類似度により人工林が自然林に置換する時間を定量化した。その結果、全体として植栽密度が高いと人工林の自然林への回復が抑制される傾向が見られたが、その植栽密度の効果を風倒撹乱が緩和することがわかった。例えば、カラマツ林では風倒撹乱によって種組成と構造の両方の回復が早まった。一方で、アカエゾマツ林とトドマツ林では風倒撹乱が比較的発生しにくく、アカエゾマツ林では中程度の植栽密度であっても、種組成が回復しなかった。したがって、光要求性、耐陰性、寿命などの植栽種の特性によって、撹乱影響、植栽個体の生存率や周囲からの他種個体の移入率が異なることで、人工林が自然林に近付く可能性が異なることが示された。自然林再生を促進する自然撹乱の役割も考慮した上で、自然林再生における人工林の活用可能性について検討する必要があるだろう。