| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-225 (Poster presentation)
近年、気候変動や異常気象の頻発により、洪水の頻度と強度が増加している。洪水は植物に酸素不足やCO₂の蓄積を引き起こし、根の機能不全や成長の低下を招く。さらに、洪水によって植物が安定的に存在しない場合、土壌微生物による温室効果ガスである一酸化二窒素の排出が増加することや、植物の喪失により土壌侵食が進行し、草地が本来の機能を維持できなくなることが先行研究で示唆されている。したがって、植物の洪水に対する安定性を評価することは、持続可能な草地管理において不可欠である。
これまでの研究では、種多様性や資源獲得力の高く、資源保存力の高い植物群集は、洪水に対する群集の安定性が高いことが示されてきた。しかし、従来の研究の多くは単一の洪水イベントを対象とし、氾濫原に設置された実験区で実施されていた。そのため、洪水の頻度や強度の変化による安定性への影響は明らかになっていない。そこで本研究では、頻繁に浸水する河川を1年間にわたるモニタリングを行うことで、洪水に対する植物群集の応答を観察する。
調査は神奈川県内の河川敷に設定した1㎡の永久プロット計9つを1サイトに設置し5サイトで行う。毎月初めに定期調査を実施するとともに、洪水による浸水が確認された場合は、3 日以内に不定期調査を行う。本研究では、植物群集の安定性を resistance・recovery・resilienceの3つの指標で定義する。これらの指標は、「被植率 × 植物高」で算出したバイオマスの代替指標を用いて評価する。また、これらの安定性指標に影響を与える要因(多様性や形質など)を今後解析していく。
本研究の仮説として洪水の強度(浸水時間×水位)が高い環境では回復力が重要となると考え、資源獲得力の高い植物群集の安定性が高くなると予想する。一方、洪水の頻度が高い環境では、洪水への抵抗力がより重要となると考え、資源保存力の高い植物群集の安定性が高まると予想する。