| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-226 (Poster presentation)
妙高市の花房山(460m)および高床山(527m)は、市街地や水田に囲まれた低山地でありながら、ブナの低地二次林をはじめ、サシバ・ノスリ・オオタカなどの猛禽類や、ギフチョウ・ヨコヤマヒゲナガカミキリといった絶滅危惧種を含む多様な生物相を有する。花房山に隣接する当校キャンパスでは、2022年までチョウゲンボウの営巣が確認されていたが、2023年に校舎の改修に伴い営巣環境が失われた。
一方、上越妙高地域には自然史系博物館が少なく、陸生生物の生物多様性情報を蓄積・更新する機関が存在しない。また、地域の絶滅危惧種情報を一元的に集約・公開する媒体も整備されていない。このような背景を受け、本活動では当校が地域における博物館機能の一部を担い、生物多様性情報の蓄積と普及を推進する持続可能な仕組みの構築を目指す。
具体的な活動として、①2009年に実施された花房山・高床山の生物相調査を再現し、里山の生態系変遷を分析する、②チョウゲンボウの営巣環境を再構築する、③生物標本作製や観察会を含む自然体験プログラムを実施する、の3点を掲げる。特に、過去調査では確認されなかった蛾類や有剣ハチ類を対象に加え、記録種数を300種に拡大することを目標とする。また、猛禽類保全活動の一環として巣箱を設置し、その利用状況を指標とする。さらに、地域の小中学生や一般市民向けに、1年半の活動期間中に5回の自然体験イベントを開催し、延べ100名の参加を見込む。
近年の博物館法改正(2022年)により、博物館の役割として「地域における学びの拠点」や「生涯学習・教育の推進」が強調されている。こうした動向を踏まえ、本活動は、地域の教育機関が博物館機能を補完する新たな形態の実践として位置づけられる。これにより、「生物多様性の主流化」と「ネイチャーポジティブ」の理念に基づく地域振興への貢献が期待される。