| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-227 (Poster presentation)
アブラコウモリPipistrellus abramusは主に市街地に生息する昆虫食性の小型のコウモリであり、東京都臨海部にも生息している。埋立地は人工的に造成された環境であり、このような都市景観が生きものに与える影響に関する研究は十分ではない。コウモリの飛翔活動には空間の複雑さ、餌の量、照度などの環境が影響を与えることが知られている。本研究ではアブラコウモリにとって適切な都市景観を明らかにすることを目的とした。
東京都の臨海副都心周辺の埋立地においてアブラコウモリの分布とNDVI、全天空写真、照度の比較を行った。衛星画像よりNDVIを算出し、NDVIが0.4以上で25m2以上連続しているエリアを植生被覆域とした。全天空写真の画像内を占める空や植物、建物の割合を算出した。また、大井ふ頭中央海浜公園なぎさの森の8地点で高さ5mの位置に超音波録音機と粘着トラップを設置し、コウモリの飛翔活動量と昆虫の量を比較した。
アブラコウモリは勝どき・月島、晴海、豊洲の順で多く確認された。勝どき・月島は豊洲よりもNDVIが0.4以上の場所が少なく、植生が制限される場所では植生被覆域付近を飛翔することが示唆された。全天空写真からは空が狭く、建物の多い複雑な環境で飛翔が多く確認され、海からの風の影響を受けにくい場所を選好している可能性が示された。なぎさの森の調査では昆虫の多い場所でのアブラコウモリの時間的に連続した飛翔が確認された。また、樹木等の潮風を遮るものがない場所では両者の観測数が減少した。照度についてはアブラコウモリの在地点では平均4.2lx、不在地点では5.5lxであり、有意な差は示されなかった。
これらのことから、埋立地において、建物が多い景観では植生被覆域を多く配置すること、緑地では外周に潮風を遮る構造を持ち、内部は開放的な景観であることが、アブラコウモリの飛翔活動に適していると考えられる。また、都市景観における適切な照度については他の生きものへの影響を十分に考慮する必要がある。