| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-231 (Poster presentation)
野生生物を撮影した写真等、市民による生物観察記録は、生物多様性情報へ活用できるのみならず、自然を対象としたレクリエーション利用の証拠として、生態系の文化的サービス評価へも用いることができる。一方で、市民による報告という点では特定の場や人による投稿の偏り等、データの偏在が含まれる。したがって、偏りが無視できなくなる詳細な地理的空間スケールでの比較や解析には向かなかった。しかし、近年は生物観察記録の投稿に特化したソーシャルメディアプラットフォームが急速に発展し、詳細な投稿地点を伴う膨大なデータが蓄積されている。これにより、小規模な森林空間利用施設を対象とするような、新たな形の生態系の文化的サービス評価が可能となっている。
そこで本研究では、ソーシャルメディアプラットフォームから取得した野生生物を撮影した写真を用いて、全国10ヶ所の「自然観察の森」を対象とした生態系の文化的サービス可視化と比較を試みた。それぞれの施設敷地内で野生生物を対象として撮影され、投稿された位置情報付きの写真約5,000枚を取得し、対象となった生物種と撮影地点を分析した。また、投稿地点の確認と管理状況の把握、投稿内容に対する現地を熟知した管理者の所感を得ることを目的に、全ての自然観察の森における現地調査と自然観察指導員への聞き取りを実施した。結果として、10ヶ所の自然観察の森それぞれにおいて人気のある野外のトレイル、象徴的な撮影対象種が可視化される等、文化的サービスの定量的な比較が可能となった。一方で、撮影対象の誤同定や不明瞭な位置情報、拠点施設における屋内展示生物の混入等、データの精度的課題が明らかになった。また、投稿対象種の分類群的偏りや、特定の貢献者による投稿の偏りも明らかになった。以上の結果を踏まえ、ソーシャルメディアデータを活用した文化的サービス評価の新たな可能性と課題について議論する。