| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-232 (Poster presentation)
生物多様性の低下を招く河川生態系の改変に対し、近年自然再生事業が注目されている。その一つに蛇行復元があるが、蛇行復元後の長期的な植生回復に関する研究は未だ不足しており、順応的管理による再生事業推進のためには、モニタリングとそれに基づく科学的評価が必要である。また、植生回復に影響する要因として水位環境だけでなく、土壌環境も重要であることが分かってきた。そこで本研究では、時間スケールに着目し蛇行復元から13年間の水位環境と湿生植物回復を評価すること、空間スケールに着目し蛇行復元から13年後の種組成の空間的なばらつきに関わる水位・土壌環境を解明することの2点を目的とした。
調査地は、蛇行復元事業完了から13年経過した北海道標茶町の釧路川茅沼地区に設定した。11コドラートを設置し、各コドラートで植生調査、地下水位調査、土壌調査を行った。2023年以前の調査結果(釧路開発建設部)も利用した。時間スケールに着目した解析では、事業完了直後、3年以内、10年以上経過後の3年代の植生の比較を行った。空間スケールに着目した解析では、10年以上経過後のデータのみを用いた。
蛇行復元直後や3年以内と比較すると、10年以上経過後にはより湿った環境に生育する種の増加、特に種に着目するとヨシの増加が見られた。これにより釧路湿原中心部の植生に近づき、湿生植物回復という目標に沿った方向へ変化していると評価できた。長期的な湿生植物への変化には相対地下水位の平均値と最大値が関係していた。
種組成の空間的なばらつきには草本が利用すると考えられる地表付近の土壌硬度が関係していた。特に柔らかい土壌を好むヨシの分布にばらつきをもたらしたと考えられる。一方土壌栄養分や水位環境は関係があるとは言えなかった。
今後は植生と地下水位に加え、土壌硬度や今回実施しなかった粒径組成に関する継続的なモニタリングも、蛇行復元後の植生管理のために必要だろう。