| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-233  (Poster presentation)

湿原再生地における植生回復に係る要因の解明ー農地地盤切り下げ後12年目の研究ー【A】【O】
Clarification of factors relating to vegetation recovery in restored wetland: A study 12 years after soil excavation【A】【O】

*中谷智喜(北海道大学), 森本淳子(北海道大学), 福澤加里部(北海道大学), 矢部和夫(札幌市立大学), 川嶋啓太(北開水工(株)), 田崎冬記(北開水工(株)), 稲垣乃吾(国交省北海道開発局), 中村太士(北海道大学)
*Tomoki NAKATANI(Hokkaido Univ.), Junko MORIMOTO(Hokkaido Univ.), Karibu FUKUZAWA(Hokkaido Univ.), Kazuo YABE(Sapporo City Univ.), Keita KAWASHIMA(Hokkaisuiko Consultant Co.Ltd.), Fuyuki TAZAKI(Hokkaisuiko Consultant Co.Ltd.), Daigo INAGAKI(Hokkaido Regional Devel. Bu.), Futoshi NAKAMURA(Hokkaido Univ.)

世界的に湿原が減少するなか、管理放棄された農地を再湿原化する方法として地盤切り下げが行われている。しかし、地盤切り下げの事例は国内外ともに例が少なく、切り下げ後の植生と地下水位の変動パターンや水質の関係については未解明な部分が多い。これらの関係を明らかにすることで、目指すべき水文化学環境の設定、および再生手法の検討が可能になると期待される。地盤切り下げ後の成立植生に係る要因を解明するため、釧路湿原幌呂地区自然再生事業地において、42の調査区で環境調査と植生調査を行った。環境調査として相対地下水位、土壌水水質を計測し、植生調査として種ごとの被覆率を記録した。さらに、各調査区の地理的条件として、当事業地に隣接する明渠排水路からの距離も計測した。植生調査の結果、事業地全体で湿原植生は回復傾向にあることが分かり、TWINSPANにより3つの植生タイプに分類された。植生タイプの違いには相対地下水位の4~9月における最大値(以下、最大相対地下水位)、TDP濃度、Na⁺濃度が主に影響しており、最大相対地下水位が大きい場所には、浸水に耐性のある種が生育するという傾向が見られた。一方TDP・Na⁺濃度はどちらも北海道の自然湿原と比べて低い値であったことから、植生タイプ間での水質の差については過大評価されている可能性が高いと考えられる。また、最大相対地下水位の空間的なばらつきは、増水時に氾濫する明渠排水路からの距離によって説明され、排水路に近いほど最大相対地下水位が高くなった。本研究により、湿原再生を目的とした地盤切り下げ後のモニタリングでは、最大相対地下水位をはじめとする地下水位の変動にも着目する必要があることが明らかとなった。また、今後新たに地盤切り下げ事業地を設定する際には、周囲に存在する河川や排水路の増水時の動態を把握し、それら流路の氾濫を許容できる空間を設けることが、多様な湿原植生の再生を目指すうえで重要だと考えられる。


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