| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-234 (Poster presentation)
2011年に発生した福島原発事故により、放射性セシウム(rCs)を含む大量の放射性核種が環境中へ放出された。中でも半減期が約30年のCs-137は、とりわけイノシシ(Sus scrofa)において、他の野生動物に比べ高い濃度で検出されている。野生動物体内におけるCs-137の個体間のばらつきや、高いCs-137濃度を有する要因の究明は、出荷制限解除やCs-137動態の将来予測に繋がり、適切かつ持続的な野生動物管理の上で重要となるが、未解明なところが多い。イノシシにおいて高いCs-137濃度が検出される要因の一つとして、Cs-137に汚染された土壌の直接摂取に伴う体内へのCs-137の移行が考えられる。そこで、イノシシにおける(1) Cs-137汚染土壌を直接摂取した場合のCs-137の吸収率、および(2)土壌摂食割合と体内のCs-137濃度の関係について調査した。福島県の二本松市から、鉱質土壌(0-5 cm)と腐植層を採取した。鉱質土壌及び腐植層のサンプルは、家畜ブタを対象とした飼料からの消化率を求める実験系(in vitro)内で処理し、Cs-137汚染土壌の摂食に伴うCs-137の消化器系吸収率を算出した。その結果、Cs-137の消化器系吸収率(平均値±標準偏差)は、鉱質土壌 3.03±1.12 %、腐植層 4.12±3.49 %であった。得られた消化器系吸収率をもとに、単位摂食量あたりのCs-137の溶出量を比較したところ、鉱質土壌及び腐植層の摂食に伴うCs-137溶出量は、植物の摂食に伴うCs-137溶出量と有意差がなかった。またイノシシの胃内容物、鉱質土壌、腐植層、及び植物の強熱減量を測定し、胃内容物中の土壌摂食割合とイノシシの筋肉中Cs-137濃度を比較した結果では、土壌を多く摂食していると考えられるイノシシ個体で、筋肉中のCs-137濃度が高い傾向にあった。