| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-235  (Poster presentation)

都市近郊の孤立した二次林環境に生息するタヌキの採食植物種と果実分布量との関連【A】【O】
Association between food habits and fruit availability in the raccoon dogs inhabiting a suburban secondary forest【A】【O】

*林翔太(東京農業大学)
*Syota HAYASHI(Tokyo Univ of Agriculture.)

タヌキは,日本で最も広範囲に生息する中型哺乳類である. 食性は雑食性で植物果実を主要な餌資源とし,生息環境に応じて嗜好性が変化する.よって,タヌキの採食植物の種類と嗜好性を解明するためには,行動圏内の植物果実の分布調査が必要であるが,採食可能な果実の分布量を定量的に評価,採食量と関連付けた研究は乏しい.近年の里山環境の衰退や二次林の管理放棄に伴い,全国的に都市部でタヌキの分布が拡大傾向にある.本研究は都市近郊の孤立した二次林環境に生息するタヌキの採食植物種と嗜好性を解明するため,糞に含まれる果実および種子の種組成を明らかにするとともに,行動域に分布する多肉果の分布地点と量を定量化することで,それらの関連を解析した.調査地は神奈川県厚木市船子に位置し,周囲を農地や住宅地に囲まれた二次林を有する東京農業大学厚木キャンパスとし,2023年2月から2025年1月にかけて10箇所のため糞(一定の場所に繰り返し排泄された糞)から合計204個の糞サンプルを採取した.調査の結果,タヌキが主に利用していた果実(出現率60%以上の月が1回以上,全調査期間で検出された種子数 > 100個)は,クサイチゴ,ヤマグワ,エノキ,ムクノキ,センダン,カキノキの6種であった.一果実当たりの種子数から採食果実数を推定すると,エノキ,ムクノキ,センダンが他種よりきわめて高い値を示したこと,3種は出現期間も長かったことから,高い嗜好性があると考えられる.調査地における多肉果の分布地点数および分布量を調査した結果,確認された全植物種のうち,ため糞から検出された植物種は17%で,植物質の餌資源には嗜好性があると言える.さらに,嗜好性が高い10種の果実分布量および分布地点数に相関が見られたことから,タヌキは採食嗜好性が高い植物の中では,多く結実し落下している果実を優先的に採食していることが示唆された.


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