| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-002 (Poster presentation)
近年,自動車に付随するさまざまな環境問題が顕在化している.なかでも,交通騒音は動物の音声を介した行動に強く影響するため,特に鳥類などの聴覚や音声コミュニケーションが生存を左右する動物に対しては留意すべき環境問題と言える.交通騒音が鳥類にもたらす生態影響について検証した先行研究の多くは,鳴き声や生息地選択におよぼす影響に着目してきた.しかし,羽音などの聴覚情報をもとにした捕食者検知に対する影響については,これまで議論すらおこなわれていない.さらに,交通騒音を構成する各車両の音は、動力源の構造に応じて異なるにも関わらず,さまざまな車両音が混成する状態で発される騒音影響を評価してきたに過ぎない.そこで本研究では,被食される鳥類(被食者鳥類)の捕食者検知感度は,各種の車両が発する走行音(騒音)に応じて異なるという仮説を立て,特に捕食者鳥類の羽音に着目して,比較・検討した.なお,本研究では,被食者鳥類にはスズメを,捕食者鳥類にはオオタカをそれぞれ用いた.それにより,生態系に配慮した道路交通騒音対策の構築にむけた情報基盤の整備を目指した.実験では,動力源の異なる自動車(電気自動車:EV,ガソリン車:G,ディーゼル車:D)の走行音とオオタカの羽音,およびこれらを組み合わせた計7つの音声を記録し,採餌中のスズメに対して再生した.各音声の再生期間中におけるスズメの行動と群れの大きさ,また逃避した個体数を記録して処理間で比較した.その結果,処理間でスズメの逃避個体数には差はなかった.この原因を探るため,試験回数と逃避個体数との関係を解析すると,試行回数を重ねるにしたがい逃避個体数が有意に減少していた.つまり,音声処理に対する慣れが生じたと考えられる.本研究で供試したスズメは,おもに人家周辺に生息し,慢性的に人為的な騒音にさらされるため,自動車騒音に対しても早期に慣れが生じた可能性が示唆される.