| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-003 (Poster presentation)
キクガシラコウモリ(以下、キクガシラ)とコキクガシラコウモリ(以下、コキクガシラ)は同属に属するコウモリであるが、コキクガシラはキクガシラと比較して体重約1/4、前腕長約1/2と体サイズが非常に小さい。近縁な2種間で体サイズに著しい差がある点に着目し、本研究ではキクガシラコウモリ属2種の生態学的特徴を解明することを目的とした。
京都府北部の芦生研究林内の広葉樹林および針葉樹林の各6地点で、2023年および2024年5月から11月に超音波検出器を用いて音響調査を行った。録音したデータから、両種のエコロケーション音の特徴に基づいて対象2種を抽出した。それぞれの検出数を活動の指標とし、体サイズの違いにより環境条件への反応が異なるとの推測のもと、両種の活動の季節変化、気象因子(気温、湿度、降水量、風速)による変化を分析した。
分析の結果、コキクガシラは通年で安定した活動を行う一方、キクガシラの活動は季節的変動が大きかった。キクガシラは 2023年は8、10月、2024年は7、9月に高い検出数を示し、年によりピークの時期が異なった。2024年4月の芦生の積算気温は前年よりも高く、キクガシラの出産時期は4月の積算気温が高いほど早まるとした先行研究と照らし合わせると、キクガシラ検出の季節的変動は繁殖行動に起因する可能性が示唆された。気温10℃以下ではコキクガシラがより多く検出された。この要因として、コキクガシラはエネルギー貯蔵量が小さいために頻回の摂餌を行った可能性、ホバリング可能な飛行能力により低温条件でも発見可能な非飛翔性の餌資源を利用していた可能性が考えられる。風速が0から1m/sに近づくにつれて活発化し、1m/sを超えると検出が減少する傾向が共通して見られた。コキクガシラは非常に小型でありながら、キクガシラと同程度の風速下で飛行が可能である事が分かった。