| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-004  (Poster presentation)

スナメリの前庭嚢にみられる体長に伴う変化【O】【S】
Body length-related changes in the vestibular sacs of narrow-ridged finless porpoises【O】【S】

*寺田知功(東京大学), 古山歩(四日市大学), 船坂徳子(三重大学), 黒田実加(北海道大学)
*Tomoyoshi TERADA(The University of Tokyo), Ayumu FURUYAMA(Yokkaichi University), Noriko FUNASAKA(Mie University), Mika KURODA(Hokkaido University)

ハクジラ類の多くの種は広帯域に渡り多様な種類の鳴音を発する一方,一部の種は100 kHz以上の狭帯高周波のパルス音(NBHF音)のみを発することが知られているが,この鳴音の生成メカニズムは未解明である.ハクジラ類に共通して存在する前庭嚢(vestibular sac)において,主にNBHF音だけを発する種についてヒダ構造の存在が報告されており,これがNBHF音の生成に重要である可能性が提示されている.しかし,このヒダ構造の発達過程は不明である.そこで,新生仔の時のみ低周波の鳴音を発し,成体になるとNBHF音のみを発するスナメリを対象に,体長に伴う前庭嚢の形状変化を調べた.漂着および混獲個体から採取した前庭嚢について,一般化線形モデル(GLM)を用いて9項目(高さ,開口幅,分岐長,横幅,縦長,ヒダの数,開口部のヒダの深さ,開口部以外のヒダの深さ,面積)の測定値について体長との回帰モデルを作成し,赤池情報量規準によるモデル選択を行った.その結果,ヒダの数についてのみNULLモデルが採択され,体長に伴う変化が認められなかった.そのため,ヒダの数は新生仔の頃から変化せず一定であると考えられる.横幅および面積については左右差があり,ともに右の方が左より大きかった.これはネズミイルカ等の他種と同様の傾向であり,左右に一対ある発音器官の右側からパルス音が発せられているという仮説を支持している.また,ヒダの形成がいつ起こるのかを調べるため,目的変数をヒダ構成割合(深さ2 mm以上のヒダ数/全ヒダ数)としてGLMによるロジスティック回帰分析を行った結果,体長100 cm付近でヒダ形成が起こる可能性が示された.今後,スナメリの生体を対象に録音調査を行い,体長に伴う鳴音の変化を調べることで,NBHF音の生成メカニズムの解明につながると考えられる.


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