| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-005  (Poster presentation)

ヒトスジシマカの羽音周波数の集団間変異と環境騒音が羽音に与える影響【O】【S】
Variation in wingbeat frequency among populations and the effect of environmental noise on wingbeat sound in a mosquito【O】【S】

*上原優策(千葉大・院・融), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Yusaku UEHARA(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

都市化や人間活動に伴った環境の改変はさまざまな種類の都市公害を生んでいる。これらの都市公害は都市に生息する生物の感覚汚染を起こすことが指摘されている。騒音は人為的・自然的音響に由来し、手がかりとしての音響情報や個体間コミュニケーションを妨害して同種認識や交尾行動に影響を与える可能性がある。鳥類や哺乳類における騒音への適応はよく研究されているが、羽音を利用して同種認識や交尾を行なうカ類に関しては理解が進んでいない。一方で、吸血を行なうカの羽音は被吸血動物による発見のリスクとなる。本研究では、ヒトスジシマカAedes albopictusの羽音周波数及び都市郊外のサウンドスケープの空間的変異を調査した。調査は、東京首都圏の都市6地点と郊外5地点で行ない、捕獲したカの羽音を現地で録音するとともに、気温とサウンドスケープを記録した。サウンドスケープの周波数ごとの音圧データを主成分分析にかけ、得られた主成分をサウンドスケープの指標とした。このとき、PC1は低周波騒音、PC2は昆虫の鳴き声に由来する高周波騒音を反映していた。野外で測定した羽音周波数や翅形態に関して11集団間で有意な差が見られた。ただし、測定時の外気温も地点間で有意に異なっていた。重回帰分析の結果、羽音周波数は、気温と高周波騒音が上昇することで増加し、低周波騒音や翅面積が増加することで減少することがわかった。都市集団の個体は郊外集団の個体よりも潜在的な羽音周波数が高かった。これらの結果は、カが羽音周波数を各地点のサウンドスケープにおける主たる騒音の周波数に近づけるように変化させていることを示唆している。この変化は、天敵や被吸血動物(哺乳類など)からの発見を避けるための音響的カモフラージュとして機能しているかもしれない。都市の個体の羽音周波数が高かったのは、都市騒音によって羽音周波数が低下し、雌雄間での種認識に誤りが生じないようにするための適応と考えられる。


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