| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-011 (Poster presentation)
針葉樹林は人工林の森林面積の約97%、天然林の約20%を占め、日本列島の陸域生態系における重要な構成要素かつ貴重な遺伝資源である。日本列島には暖温帯から亜寒帯にかけて5科17属39種の針葉樹種が天然分布しており、その半数以上が日本固有種であることから、これらは日本列島の植物多様性や進化、植生の形成要因を明らかにするうえでも重要な種群である。これまでに、遺伝マーカーを利用して種内の遺伝構造や遺伝的多様性を明らかにした多くの研究が行われてきた。一方、種間の遺伝多様性および変異の存在パターンの比較はなされておらず、日本列島の針葉樹林を統合した集団動態や遺伝的多様性に関する知見は得られていない。そこで本研究では日本産針葉樹34種800集団以上を対象に、MIG-seq法によるゲノムワイドSNPsを用いた比較系統地理解析を行った。その結果、それぞれの種における遺伝的分化は比較的小さかったが、種間で共通した遺伝的境界として津軽海峡、東北地方南部、近畿地方、トカラギャップなどが検出された。また各種の遺伝的多様性と現在の気候条件および最終氷期最盛期からの気候安定性との関係を解析したところ、28種中25種で遺伝的多様性に対する気候安定性の影響が検出され、うち21種で気候が安定していた集団の遺伝的多様性が高い傾向が示された。これは針葉樹の遺伝的多様性には現在の気候条件のみならず、過去の気候条件や逃避地の有無が影響していることを示している。これらに加えて、全種に共通する遺伝的多様性のホットスポット探索の結果や、地域集団の分化過程の推定結果に関しても言及する。