| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-013  (Poster presentation)

植生の劣化再生過程における海浜植物ハマヒルガオの遺伝的多様性の変化【O】
Changes in genetic diversity of a coastal plant Calystegia soldanella population during the decline and recovery process【O】

*綱本良啓(北海道立総合研究機構), 西川洋子(北海道立総合研究機構), 島村崇志(北海道立総合研究機構), 陶山佳久(東北大学), 松尾歩(GENODAS, 東北大学)
*Yoshihiro TSUNAMOTO(Hokkaido Research Organization), Yoko NISHIKAWA(Hokkaido Research Organization), Takashi SHIMAMURA(Hokkaido Research Organization), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Ayumi MATSUO(GENODAS, Tohoku Univ.)

石狩浜(北海道石狩市)には、国内有数の海浜植物群落が分布するが、近年、ススキ等の内陸性植物の侵入により、海浜植物群落の縮小や種組成の変化が急速に進んでいる。発表者らは、石狩浜において2020年より、表土と植生の掘り取りによる海浜植物群落再生試験を実施してきた。海浜植物は、強風による砂の堆積と侵食という厳しい環境下で個体群を維持するために、地下茎や匍匐茎によるクローン成長を行う種が多い。これらのクローナル海浜植物は、クローン成長による急速な個体群回復が可能である一方、それに伴い遺伝的多様性の喪失を招く危険性がある。本研究では、再生試験地及びその周辺において、クローナル海浜植物ハマヒルガオ(Calystegia soldanella)を対象とし、海浜植生の劣化から回復の過程における遺伝的多様性の変化をMIG-seq法を用いて解析した。
個体群が比較的健全な状態で保たれている地点に80 m×4 mの試験区を作成し、クローン構造を調べたところ(n = 171)、16ジェネットが検出され、最大ジェネットの両端間の距離は、30.3 mであり、この個体群ではクローン成長が個体群維持に大きく寄与していると考えられた。
内陸性植物の植被率が異なる複数地点から結実個体の葉または花柄(n = 48)と種子(n = 50)を採取し遺伝的多様性を比較したところ、地点によらずヘテロ接合度は高く保たれていた。しかし、内陸性植物の植被率が高い地点においては、結実率が低下していた。内陸性植物の侵入により、種子繁殖への依存度が減少することで長期的には遺伝的多様性の低下につながる可能性がある。
表土と植生掘り取りを実施した再生試験区(100m2×3地点)においては、高密度(1.14個体/m2)で実生更新が起き、各個体のヘテロ接合度は高く保たれていた。実生は全て異なるジェネットであるため、遺伝的多様性が急速に回復したと結論づけた。今後、実生同士の競争や試験区外からのクローン拡大が予想されるため、遺伝的多様性の変化をモニタリングしていく必要がある。


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