| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-016 (Poster presentation)
植物の形態形成には、環境変化の有無に関わらず常に決まった形をつくる過程と、環境にあわせて「可塑的」に調整される過程がある。「可塑性」は、変動する環境下でその幅が広がり、逆に安定した環境下ではその幅が狭まる方向に進化するとされる。「可塑性」の進化を司る分子基盤についてはよく分かっていないが、DNAの塩基配列の変化 (遺伝変異)だけでなく、DNAメチル化をはじめとするエピジェネティックな変化が関わる可能性が指摘されている。しかし、エピジェネティックな変化が自然選択を受けて植物の形質進化に寄与するかどうかは未解明である。
国内には、奈良公園(奈良県)や宮島(広島県)など、シカの生息密度が極端に高い場所で、様々な植物種において小型化(矮化)の現象が見られる。多くの場合、野生植物の矮化は生育地の様々な環境ストレスによって可塑的に引き起こされるが、奈良公園のオオバコの矮化形質は世代を超えて安定して遺伝する。具体的には、奈良公園のオオバコは、通常のオオバコと比べて極端に葉が小さく、花茎が短いばかりでなく、発芽から開花までの日数がごく短いという特徴を持ち、いずれの形質も次世代に遺伝する。歴史的な背景から、奈良公園にシカが増えたのはおよそ1200年前以降と考えられている。そのためこの矮化したオオバコはシカによる過剰な採食という選択圧の下、短期間で進化したと考えられる。
本研究の目的は、普通オオバコと奈良公園の矮化オオバコとの形質の相違に関わる核ゲノムの遺伝変異とエピジェネティックな変化の有無を明らかにすることである。本大会では、まずオオバコ全ゲノム配列を決定し、その後、奈良公園で自然選択を受けたと考えられる遺伝子領域を単離するための集団ゲノム解析を行ったので、それらの結果について報告する。