| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-017  (Poster presentation)

日本の森林における種子生産の豊凶パターンの同調性:系統的距離・地理的距離との関係【O】
Synchrony in Mast Seeding Patterns in Japan: Relationships with Phylogenetic and Geographic Distances【O】

*小川裕也, 日浦勉, 甲山哲生(東京大学)
*Yuya OGAWA, Tsutom HIURA, Tetsuo KOHYAMA(Tokyo Univ.)

植物には結実状況が広範囲で同調し、数年おきに豊作を繰り返す豊凶(マスティング)現象が知られている。しかし、データ不足や統一手法の欠如により、豊凶パターンに関する研究は限られていた。近年では、グローバルスケールでの結実データの蓄積や解析手法の発展により、地域間や植物種間における種子生産の豊凶パターンに関して、個体サイズ、機能群、系統的関連性といった要因との関係が明らかになりつつある。
モニタリングサイト1000森林・草原調査では、日本の21サイトにおいて約20年間リタートラップ調査が継続され、落下種子のデータが蓄積されている。しかし、日本で多地域・多樹種にわたる豊凶パターンを体系的に解析した研究は未だない。そこで本研究では、さまざまな花粉・種子散布様式を含む28種の樹木の豊凶パターンを解析し、海外における研究結果と比較検討を行った。
豊凶パターンの指標として、年ごとの変動に頻度を重み付けした変動性(volatility)をRパッケージmastiffで算出した。各サイトペア間における同調性は、各年の種子・果実数の標準化した時系列データのピアソン相関係数を求め、各樹種の全出現サイトにおける同調性は、同調性指数(Loreau & de Mazancourt 2008)を用いて評価した。また、系統的距離は、V.PhyloMaker2を用いて樹形図を作成して2種間の枝長を求めた。
解析の結果、変動性は種によって様々であることが示された。全体的に地理的距離が近いほど同調性が高く、これはグローバルスケールでの研究結果と一致していた。また、近縁種間では同調性が高いものの、系統的距離がある程度離れると、同調と非同調の関係が混在することが示された。これは、同系統内であっても進化の過程で花粉散布や種子散布の様式に違いが生じたことによると考えられる。
本研究は、日本の森林における広域スケールの豊凶パターンの一端を明らかにした。これにより豊凶現象の理解が進み、今後のマスティング研究の発展に貢献することが期待される。


日本生態学会