| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-019 (Poster presentation)
湿原は寒帯のツンドラから熱帯まで広く分布しており、土壌水分量や地表面水量に影響されて植生の変化がひんぱんかつ大きいことが特徴である。湿原は、希少生物の保全・河川流量の平準化・炭素固定など多くの生態系サービスを提供しているため、その植生の把握は重要である。しかし、湿原は出水などのかく乱の影響を強く受けて植生の変化が激しい。いっぽうで、数年間かく乱を受けなければ樹林化が進行するなどし、植生の把握は高頻度で実施する必要がある。加えて、湿原に生育する植物は森林の樹木に比して小型なものが多く、より精密な観測が求められる。よって本研究では、ディープラーニングを用いた植生判別技術である「こま切れ画像法」を応用し、UAVで撮影された空撮写真から植生のタイプ分類を実施した。調査対象地は椹野川(山口県山口市を流れる二級河川で瀬戸内海にそそぐ。延長30.3km、流域面積322.4平方km)中流域の氾濫原である。調査対象地の地表面は、かく乱の頻度と強度および水位のちがいによって、灌木帯・竹林帯・草本帯・裸地・水面の5タイプに分類可能である。こま切れ画像法の実装のため、これら5タイプの地表面それぞれの教師画像を取得し、ディープラーニングフレームワークYOLOv8による画像分類(classification)を実施した。その結果、調査対象地の地表面タイプを高精度で判別することができた。さらに、AI生成に用いる教師画像のサイズをシステマチックに変えたAIモデルを生成する実験を行い、それぞれの判別性能を評価した。本研究では、短時間で数十haの撮影が可能なUAVと植生の自動判別を実現するディープラーニングAIを組み合わせることで、湿原植生を低コストかつ高精度で判別することができた。このような技術の進展は、今後の世界における湿原調査に進歩をもたらすと期待される。