| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-020 (Poster presentation)
地下水によって形成される湿地生態系は,年間を通じて水温が安定しているため,希少種や固有種の生息場となっている.また,湧水流入量の多い河川は夏季でも水温が上がりにくいため,気候変動下における生物のレフュージアとして機能する.このように地下水循環の維持は,湿地の生物多様性保全にとって重要である.しかし,都市化などの土地利用の改変は土壌への雨水浸透量を減少させ,地下水環境を変化させる可能性がある.これに対し,雨水浸透施設の設置などのNature-based Solutionsの取組みは,地下水循環の改善を通して湧水に依存する生物の生息環境の改善に寄与できる可能性がある.そこで本研究では,地下水循環の変化に敏感な生物としてホトケドジョウに着目し,雨水浸透の促進が効果的に機能する場所を把握する手法を検討した.具体的には,「現在の土地利用下での雨水浸透量」と「雨水浸透量を増加させた場合」のシナリオによる統計モデルを作成し,各モデルから算出されるホトケドジョウの生息確率の差を取ることで,地下水循環の改善効果を定量化した.統計モデルには,雨水浸透量以外の交絡要因として,気温や湿地の履歴に関する説明変数も含めた.解析は都市化が進行する印旛沼流域を対象に,一般化線形モデルを用いた集水域単位の解析と,MaxEntによるグリッド単位の解析の2つの手法で実施した.
その結果,いずれの解析手法においても,雨水浸透量の増加がホトケドジョウの生息確率を向上させることが確認された.また本手法により,①どの場所で,②どの程度雨水浸透を促進すれば,③流域全体にどの程度の効果が生じるか,を定量的に評価することができた.これらの成果は,流域治水やNbSの科学的根拠として,具体的な土地利用計画の策定に貢献できる可能性がある.