| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-022  (Poster presentation)

空間自己相関入りモデルが紐解くカラマツ試験林の遺伝と環境の効果【O】
Genetic and environmental effects in a progeny test of larch represented by the statistic model with spatial autocorrelation【O】

*石塚航(北海道立総合研究機構), Shufen CHEN(Cornell Univ.), 後藤晋(東京大学)
*Wataru ISHIZUKA(Hokkaido Res. Org.), Shufen CHEN(Cornell Univ.), Susumu GOTO(Univ. Tokyo)

植物の植栽試験は、対象種の遺伝的特性の評価を行うためなどの理由で広く実施されている。試験にて観察される表現型値は遺伝の効果と環境の効果を含むことから、遺伝的特性の適正な評価には、いかに環境の効果を制御して遺伝の効果を推定するかが重要となる。ただし、樹木の場合は山林に試験地を造成するため、尾根や沢、斜面起伏、植生など諸条件にばらつき(空間的異質性)が生じ、いわゆる立地効果として表現型値に影響を与え、遺伝効果を精度よく推定する妨げになると危惧される。本研究では、立地効果を適切に推定できれば、表現型値から立地(環境)効果を除去して遺伝効果を事後推定できると考え、空間情報を組み込んだ解析によって立地効果が推定できるか、実際の試験地データを用いて取り組んだ。

解析対象はカラマツの育種用試験地で、植栽個体は遺伝的に混合されている。解析には植栽後2~15年目の成長と個体の位置情報を用い、遺伝効果の推定に一般に用いられる遺伝モデルに空間構造考慮のプロセスを組み込んだ。具体的には、BLUP(Best Linear Unbiased Prediction;最良線型不偏予測)法で遺伝効果を推定しようとする混合モデルにおいて、分散共分散成分として空間自己相関行列を組み込んだ。この特長は、個体の位置情報から、空間自己相関に基づいて空間構造を推定することにあり、これによって、表現型に影響を及ぼす因子・条件の特定や測定を省略できる利点がある。

その結果、局所的に変化する立地条件を可視化することができ、空間構造の考慮によって遺伝効果の推定精度や遺伝率の向上が見込めることがわかった。本試験地において、隣接林分に面した林縁部や地形の変わり目は立地条件が優れず、環境効果を把握する有益な情報となることもわかった。

詳細:Chen & Ishizuka et al. (2023) Journal of Forest Research. doi:10.1080/13416979.2023.2198132


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