| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-024 (Poster presentation)
耕作放棄は、里山的環境を好む生物を消失・減少させる原因になると懸念されている。一方、耕作放棄地を自然の遷移にゆだねて自然植生へ移行させることができれば、自然林環境を好む種を回復させる契機となるかもしれない。本研究では、全国各地の耕作放棄地を伴う無居住化集落と、その近隣の農業活動が行われている集落とで、里山や自然林を特徴づける植物種群(以下指標種)を用いて、無居住化後の年数と指標種の出現回数との関係を明らかにした。
無居住化集落とその近隣の居住集落を71セット選定して調査地とした。各調査地には、里山景観の代表的な要素(二次林、刈り取り草地、水田、宅地)を通過する1km × 100mのベルトトランセクトを設置し、歩行可能な道を踏査して、100mのセグメントごとに指標種の在不在を記録した。指標種は、各要素の植物群落に特徴的に出現し、植物社会学的群落分類の際に標徴種として用いられる多年生草本と低木のうち、広い分布域を持つ種を用いた。無居住化集落の離村年を文献等で収集し、離村後年数と出現セグメント数との関係を種別に確認した。
水田性の指標種の生育地は、無居住化によって消失しており、その傾向はどの地域でもみられた。草原性の指標種の出現回数は、離村後年数を経るにつれて減少する種と、増加する種の両方があった。また、この傾向には地域差があり、関東以西の多くの地域で、離村後年数を経ると減少する傾向がみられる一方で、東北と北海道ではその傾向は弱かった。森林性指標種の出現回数も、種や地域ごとに離村後年数との関係が異なり、一部の落葉樹林の指標種では、出現回数が緩やかに増加するものの、多くの常緑樹林の指標種では、増加傾向は見られず、地域差も大きかった。今回確認した離村後55年までの時間スケールでは、無居住化は一部の里山的環境を好む種の生育地を減少させているものの、自然林環境を好む種の生育地を回復させているとまではいえないようだ。