| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-025 (Poster presentation)
東南アジア島嶼部・アメリカ大陸・アフリカ大陸の各赤道熱帯地域において、植生(樹木群集)の空間的異質性は土壌栄養や水資源の可給性により説明される。一方、群集を構成する樹木種それぞれの資源傾度に対する応答(ニッチ)は、少数の分類群を対象とした研究がほとんどであり、多様な熱帯樹木の進化におけるニッチ分化の重要性は示されていない。これは、熱帯林は多くの樹種で構成されているため、各種に対し十分なデータを得るためには植生・土壌・気候に関する大量の情報が必要なためである。近年、アメリカ熱帯林において大規模な植生・土壌調査が実施されているが、比較可能なデータが他の熱帯地域には存在せず、熱帯樹木のニッチ分化の包括的理解には至っていない。
本研究では、マレーシア・サバ州の熱帯低地林において、新熱帯の先行研究と比較可能な方法で植生・土壌調査を実施し、熱帯樹木系統におけるニッチ分化の重要性を解明することを目的とした。火山灰土壌、沖積土壌、蛇紋岩土壌、堆積岩土壌など様々な土壌タイプに成立する熱帯林62地点において、植生調査とともにリターの下10cmの土壌を採取した。各土壌についてpH, 全炭素・窒素・リン・イオン交換樹脂抽出の無機態リン濃度、Mehlich-3溶液抽出のカチオン濃度を測定した。各種の調査地での出現確率と環境要因との関係を統計モデルにより解析した。
土壌の可溶性P濃度(0.03 ~ 10.2 mg kg–1)、CN比(11.2~31.3)、交換態カチオン濃度(17~4194 mg kg–1)は、プロット間で大きなばらつきが見られた。5地点20個体以上の個体が出現した317樹木種のうち、117種(37%),85種(27%),9種(3%)の分布が、可溶性リン、CN比、カチオンによって有意に変化していた。この結果は土壌リンが樹木のニッチ分化を説明する上で重要であることを示している。発表では、さらにアメリカ熱帯でのデータと共に、どのような一般性・地域性が見られたか?熱帯樹木の系統樹上でニッチの分化がどのように生じているかについて議論する。