| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-029  (Poster presentation)

オオイヌタデの防御形質多型に伴うフェノロジー変異は同所的な生殖隔離を促進するか【A】【O】
Does the difference in phenology associated with polymorphism in the defense trait of P. lapathifolia facilitate sympatric reproductive isolation?【A】【O】

*矢野文士(鹿児島大学), 松田浩輝(佐賀大学), 山尾僚(京都大学), 徳田誠(佐賀大学, 鹿児島大学)
*Fumito YANO(Kagoshima Univ.), Hiroki MATSUDA(Saga Univ.), Akira YAMAWO(Kyoto Univ.), Makoto TOKUDA(Saga Univ., Kagoshima Univ.)

植物は地球上で最大のバイオマスを誇り,植食性昆虫は既知種数の約1/4を占めるほど多様である。両者の相互作用は4億年以上続いており,植物は植食者に対する新たな防御手段を獲得することにより食害を逃れ,植食者もそれに対抗する戦術を獲得することで両者は共進化してきたと考えられる。この過程は植物の多様化や植食者の適応放散に貢献したとされ,両者の相互作用や共進化のメカニズムは生態学における非常に興味深い研究課題の1つである。これまで,植物と植食者の相互作用系に関しては多くの研究が展開されているが,植食者がどのように植物の種分化を引き起こし,植物の進化に寄与してきたのかについては未解明な点も多い。本研究の対象であるオオイヌタデには,葉にトライコームをもつ有毛型ともたない無毛型が存在する。先行研究により,トライコームが主要な植食者であるイチゴハムシの摂食を阻害する物理防御として機能すること,イチゴハムシの生息密度と群落内の有毛型比率の間には,正の相関があることが明らかになっている。本研究では,オオイヌタデの防御形質多型に伴う他形質の変異の解明を目的に栽培実験を行った。その結果,無毛型の方が有毛型よりも開花時期が有意に早かった。また,無毛型の方が初期成長が早く,種子数が多く,平均種子重が重かった。一方,枝分かれの数は有毛型の方が多く,草丈および乾燥重量には有意差は見られなかった。無毛型は成長や種子生産に多くの資源を配分しているのに対し,有毛型は生育期間を延長することで,トライコームや枝分かれのコストを補っている可能性がある。植物の開花時期のずれは生殖隔離に繋がることがあるが,本研究における有毛型と無毛型の開花時期のピークは約2週間異なっていた。この結果は,防御形質の発達に伴う開花時期の変異が生殖隔離を誘発し、植物の多様化をもたらしうることを示唆している。


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