| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-031  (Poster presentation)

アポイ岳の固有種ヒダカソウの衰退はなぜ続くのか?:長期モニタリングから要因を探る【O】
Causes of continuous population decline of an endemic plant Callianthemum miyabeanum at Mt. Apoi: the analysis of long-term monitoring data【O】

*西川洋子(北海道立総合研究機構), 島村崇志(北海道立総合研究機構), 綱本良啓(北海道立総合研究機構), 田中正人(アポイ岳ファンクラブ)
*Yoko NISHIKAWA(Hokkaido Research Organization), Takashi SHIMAMURA(Hokkaido Research Organization), Yoshihiro TSUNAMOTO(Hokkaido Research Organization), Masahito TANAKA(Mt. Apoi Supporter's Club)

ヒダカソウ(キンポウゲ科キタダケソウ属)は,北海道日高山脈南西端に位置するアポイ岳とその周辺の高山風衝草原に生育する固有種であり,種子繁殖とともに不定芽の形成による栄養繁殖を行う多年生草本である。長年にわたる盗掘により個体数が減少したが,盗掘がみられなくなった2000年以降も減少傾向が続いている。近年の個体数減少の要因を明らかにすることを目的として,主要な生育地であるアポイ岳と幌満岳の個体群について,2003年から2016年まで14年間実施した生育段階構造のモニタリングに基づき,それぞれ個体群行列を作成した。安定生育段階構成は,両生育地とも1葉(73%,65%)と2葉(25%,28%)の割合が高く,他の生育段階が占める割合は低かった。特に,開花個体の割合が低く(0.1%,0.3%),種子生産は制限されていた。いずれの生育地においても個体群は縮小傾向にあることが示され(個体群成長率λ = 0.913,0.951),アポイ岳の方がその傾向が強かった。シミュレーションの結果,種子繁殖による個体群成長への寄与はほとんどなく,不定芽由来の個体の参入により,縮小傾向が緩和されていることが示された。また,非開花個体の開花段階への推移確率の上昇が,個体群成長率の増加に大きく影響することがわかった。個体群の大部分を占める1葉,2葉の個体が開花段階まで成長できないことが,個体群縮小の要因であると考えられる。ヒダカソウ生育地における植物群落の種組成が,過去30年間で大きく変化しており,生育環境の変化がヒダカソウの成長を抑制していると考えられる。


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