| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-044 (Poster presentation)
ダケカンバBetula ermanii Cham.(カバノキ科カバノキ属)は、カムチャッカ半島・極東ロシア・中国北東部・朝鮮半島・日本列島の、主に低温・多雪地域に広域分布する落葉高木であり、四倍体であることが知られる。その南限地は紀伊半島・四国の1500m以上の山地であるが、本地域の個体はシコクダケカンバBetula shikokiana NAKAI.として別種扱いされていた過去がある(中井 1914)。発表者は、紀伊半島・四国の個体は、二倍体であり、他地域の四倍体であるダケカンバと遺伝的に大きく異なることを初報告した(Aihara et al. 2024)。紀伊半島・四国には、第三紀に中国南東部から日本列島に渡ってきたとされる古い植物群が多く存在する。このシコクダケカンバとされた個体群もダケカンバの祖先的な系統の生き残りであり、極限環境である高山・北方に広がったダケカンバへの進化が日本列島で繰り広げられた可能性がある。
本発表では、このシコクダケカンバとされた個体群の近縁種内での系統関係を推定し、本系統はダケカンバの祖先種か否かを議論する。また、ダケカンバの過去の分布変遷・動態を明らかにすべく、日本列島・サハリン・朝鮮半島・中国の個体の系統関係・遺伝的特性を評価する。これに際し、二倍体を含む日本国内外のダケカンバ、および近年報告された新種Betula buggsii(Wang et al. 2022)やチョウセンミネバリBetula costataを含むカバノキ属Costatae節の遺伝解析を、全ゲノムを網羅的に評価するRAD-seqを用いて行った。
本発表は、日本各地の高山に広がったダケカンバの動態・進化史に新たな洞察を提供することと思われる。