| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-048 (Poster presentation)
野生動物は、農業被害等への懸念から脅威とみなされる傾向にある。一方で、生態系では重要な役割を果たす。草原生態系では、イノシシは掘り起こしと呼ばれる土壌撹乱を引き起こす。この撹乱にはタイプ(土壌の掘り下がり、盛り上がり、耕運に近い状態)や強度(深さや高さ)にばらつきがみられ、齧歯類による土壌撹乱と比べて多様性が存在する。その一方で、イノシシによる掘り起こしと植物多様性との関係についてはこれまで、掘り起こしの有無がもたらす効果を検証したにすぎず、掘り起こしの特徴を考慮した議論はなされていない。仮に、掘り方によって種の組成が異なるのであれば、イノシシは多様な掘り方を通じて、草原内の植生をモザイク状にすることで、草原植物のγ多様性に強く関わるだろう。そこで、イノシシの掘り起こしの多様性が植物群集に与える効果を明らかにすべく、掘り起こしを模倣した人工撹乱試験にて検証を試みた。本種による多様な掘り方を考慮し、タイプ(掘り下げ、盛土、耕運)と強度(深さや高さ:5㎝、10㎝、20㎝)を組み合わせた3×3要因試験を行った。試験は半自然草原で行い、期間中(1年半)、1.5ヶ月に1回の程度の頻度で植生調査を実施した。試験の結果、撹乱直後では種の豊かさや種組成に処理間で大きな違いがみられ、特にその変化は掘り下げタイプで大きかった。一方で、処理から1年程度が経過すると、種数は処理によらず対照区と変わらなくなるが、多様度指数(D)については、強度が強くなるほど、掘り下げと耕運処理で上昇し(優占種の減少が示唆)、盛土では低下(優占種の増加)するなど処理による違いがみられた。種組成については、掘り下げ処理で依然として異なっていた。本結果は、イノシシによる掘り起こしは草原内の植生に変化をもたらすことで、草原内の植物多様性(γ多様性)を高めることを示唆している。