| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-049 (Poster presentation)
近年の気候変動により中高緯度地域では夏季よりも冬季の気温上昇が顕著であり、季節非対称な温暖化が植生に大きな影響を及ぼすと考えられる。植物の機能的形質はこのような気候変動における植物への影響を予測可能である。先行研究によると、気温上昇により葉長の可塑性、水分増加により葉長と葉面積の可塑性、気温上昇と水分増加により葉長・比葉面積(SLA)・葉炭素含有量の可塑性がバイオマスに影響を与えると報告されている。また植物の機能的形質は植物の生理・生態的特性や生存戦略と密接に関連しており、先行研究によると気温が上昇するとSLAが低く葉が厚い形質を持つ植物が生存戦略において有利であることが報告されている。本研究ではモンゴル草原において季節性温暖化操作によって植物群集の形質、バイオマス、可塑性はどのように変化するのかを明らかにすることを目的とした。
本研究は、モンゴル国バヤンウンジュール村の乾燥地草原内の実験区を調査地として、季節性を考慮した温暖化操作実験を行った。オープントップチャンバー(OTC)と電熱線を組み合わせて、加温時期が異なる3つの処理区(通年、夏季、冬季)とコントロール区の4処理を6反復し、計24プロットで温暖化操作実験を行った。各処理区で、形質、植生(バイオマス、被度、種組成)、環境(気温、地温)の調査を行った。
検証の結果、冬季温暖化処理区ではバイオマス応答と葉乾物含有量(LDMC)及び植物高(LH)に相関が見られた。また、季節によらず温暖化した場合、バイオマス応答と植物高(LH)に負の相関が見られた。このことから、温暖化が植物群集に与える影響は季節によって異なることが示唆された。
本研究の結果は、モンゴルの寒冷乾燥草原における季節非対称な温暖化が植物群集に与える影響を明らかにし、今後の気候変動下での植生変化に関する理解を深めるための基盤となる。