| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-050  (Poster presentation)

積雪分布と送粉者が形作る高山植物の空間遺伝構造【O】
Spatial Pattern of Genetic Variation in Alpine Plants Shaped by Snow Distribution and Pollinators【O】

*甲山哲生(東京大学), 亀山慶晃(東京農業大学), 和田直也(富山大学), 小熊宏之(国立環境研究所), 工藤岳(北海道大学)
*Tetsuo I. KOHYAMA(Univ. Tokyo), Yoshiaki KAMEYAMA(Tokyo Univ. Agric.), Naoya WADA(Univ. Toyama), Hiroyuki OGUMA(NIES), Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

高山帯では積雪分布の空間的不均一性が雪解け時期の違いを生み、これが開花フェノロジーを規定することで遺伝子流動を制限する要因となる。さらに、送粉者タイプの違い(例えば、長距離を移動するマルハナバチと移動性が低いハエ類)も遺伝子流動に影響を与えると考えられる。本研究では、これらの要因が高山植物の遺伝的構造に与える影響を明らかにすることを目的とした。

調査は北海道大雪山の化雲岳〜ヒサゴ沼周辺(約225 ha)で行い、50 m x 50 mのグリッド毎に多年生草本のミヤマキンバイ、エゾコザクラ、ヨツバシオガマ、ミヤマリンドウ、ハクサンボウフウの葉を採集した。葉から抽出したDNAサンプルをもとに、NGSによるSSRマーカーの一括ジェノタイピングを行い、各個体の遺伝的構造を解析した。また、各調査グリッドの雪解け日は、Planet Labs社の高頻度地球観測衛星画像(2017〜2019年)をもとに、積雪分布の時空間自己相関を考慮した一般化線形混合モデルを用いて推定した。

解析の結果、複数の種で類似した遺伝的空間構造のパターンが見られ、各グリッド内の個体間遺伝的類似度は地理的距離および雪解け日と相関があった。一方で、こうした遺伝的空間構造が見られない種も存在し、この違いは送粉者の移動能力の違いに起因する可能性が示唆された。本研究は、積雪分布と送粉者の影響が高山植物の遺伝的構造形成に重要な役割を果たすことを示し、高山生態系の保全や気候変動影響評価の基盤となる知見を提供するものである。


日本生態学会