| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-052 (Poster presentation)
長野県中央アルプス山麓では長期間にわたる個体追跡調査から、ツキノワグマが主に夏季に里地を利用することが分かっている。当地域では、里地利用個体の大部分は、農作物非加害個体であるが、一部の個体はトウモロコシを加害している。GPSテレメトリー調査から、里地においてツキノワグマは、交通量の少ない道路を8~9月の夜間に横断することが多いことが明らかとなっている。本研究では、農作物加害の有無による道路横断地点の利用環境の違いを明らかにすることを目的として現地調査を行った。
解析個体は、里地周辺で捕獲されGPS首輪を装着した14頭(オス8頭、メス6頭)とした。8頭(オス5頭、メス3頭)はトウモロコシ畑を利用したが、6頭は農地利用が確認されなかった。調査地点は、これらの個体が複数回横断した道路上の30地点とした。各地点において、道路両側に2m×2mコドラードを5ヶ所設置し、下層植生の最大草丈、植被率、優占植物種、見通し距離および周辺の土地利用について記録した。調査の結果、横断地点の平均草丈は、農地利用個体の方が非利用個体よりも有意に高く、クマの体高の約2倍あった。平均植被率は、農地利用関係なく80%以上であった。林内の平均見通し距離は農地利用個体の方が非利用個体よりも有意に短かった。優占植物種はどちらもツル植物・高茎草本が優占していた。周辺の土地利用についてはそれぞれアカマツ林、その他樹林、田畑が多く、農地利用個体のみ加害しているトウモロコシ畑の割合が高かった。
農地利用個体と非利用個体では、里地で優占植物や土地利用は同様の環境を利用していたが、農地利用個体は農地への移動の際に人目に付く可能性が高くなり、非利用個体に比べより植生が繁茂し、身が隠しやすく見通しの悪い場所を横断場所として利用していると考えられる。