| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-055 (Poster presentation)
種の分布がどのような要因によって制限されているかを明らかにすることは、種多様性創出のメカニズムの理解にとって重要である。日本の中部山岳域は起伏の激しい複雑な地形の山岳域であり、特異な環境に適応した固有種が多く、高い種多様性が保たれている地域である。高い種多様性を持つ植物としてサトイモ科テンナンショウ属がある。この植物は世界で180種ほどが確認されており、そのうち44種が日本固有種である。特にマムシグサ節はほとんどが日本に分布しており、日本で急速な多様化が発生した種群である。そこで、本研究では中部山岳域に分布するテンナンショウ属マムシグサ節3変種カミコウチテンナンショウ、ハリノキテンナンショウ、ユモトマムシグサの分布と環境の特徴を明らかにし、成長・繁殖の環境勾配にそった変化について調べた。
3変種の分布は空間的に分かれており、ユモトは太平洋側から内陸部にかけて、カミコウチは内陸部、ハリノキは日本海側に分布していた。ユモトは積雪量が少なく、日照時間が長い場所に分布していたのに対し、カミコウチとハリノキは積雪量が多く、日照時間の短い場所に分布していた。
ユモトの体サイズと葉のバイオマス量は積雪が多いと減少し、日照時間が長いと増加する傾向が見られた。ハリノキの体サイズと葉のバイオマス量は積雪が多い環境でも減少しなかった。
ユモトは体サイズがある程度大きくならないとメスになる確率が高くならないが、カミコウチとハリノキは体サイズが小さくてもメスになる確率が高い傾向が見られた。
以上の結果から、ユモトは成長期間が短くなると種子繁殖に必要な体サイズを維持できなくなるが、カミコウチとハリノキは成長期間の短い環境でも種子繁殖に必要な体サイズを維持することで分布を維持している可能性がある。
したがって、積雪による成長期間の長さの違いが3変種の分布に影響していることが示唆された。