| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-060 (Poster presentation)
里山ランドスケープにおいて、水田は生物多様性のホットスポットになっている。しかしながら、近年の人口減少や高齢化に伴い、水田の耕作放棄が進行し、生態系への影響が懸念されている。耕作放棄によって湿性環境である水田が乾燥し、草地・森林化することは、地上徘徊性昆虫類のハビタットに大きな影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究では、里山ランドスケープを有し、水田の耕作放棄が進行している新潟県佐渡市において、耕作放棄の拡大による土地利用景観の変化が、地上徘徊性昆虫類の分布に及ぼす影響を解明し、多様性の将来予測を行うことを目的とした。
地上徘徊性昆虫類は、ピットフォールトラップを用いて、春期(2024年5~6月:59地点)、夏期(2024年8月:49地点)、秋期(2023年および2024年10月:69地点)の3期に分けて採集した。採集された地上徘徊性昆虫類のデータをもとに、各種の出現(在/不在=1/0)を応答変数、土地利用および地形に関する環境要因を説明変数とし、LASSO回帰による種分布モデルを作成した。種分布モデルをもとに、2050年までにⅠ.人口が少ないエリアから順に水田の約70%が放棄されるシナリオ、Ⅱ.Ⅰと同様に放棄が進行するが、トキの餌場創出を目的とした環境保全型農業を実施している水田は維持されるシナリオの2つのシナリオにおいて将来の分布を予測した。
結果として、春期には47種、夏期には45種、秋期には43種、合計71種10868個体の地上徘徊性昆虫類を採集し、そのうち、春期15種、夏期13種、秋期15種について種分布モデルを作成できた。耕作放棄によって変化する景観要素(水田、草地、広葉樹林、針葉樹林、森林、林縁長)に応答する種は、春期14種、夏期13種、秋期14種であり、耕作放棄による地上徘徊性昆虫類への影響が大きいことが示唆された。
本発表では、シナリオごとに各地上徘徊性昆虫種の分布や多様性に及ぼす影響を比較し、生物多様性を高める土地利用景観について考察する。