| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-063  (Poster presentation)

鳥類の翼筋肉の違いとその形状比較【A】【O】
The differences in avian wing muscles and their morphological comparison.【A】【O】

*簑島あすか(千葉大・院・融), 村上正志(千葉大・院・理)
*Asuka MINOSHIMA(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

鳥類の飛翔形態は生息環境によって多様に変化する。特に障害物の多い環境では、翼の操縦性を高めることで効率的に飛翔する必要がある。本研究では、鳥類の前翼膜に特徴的に見られ、翼の操縦性に関与するとされる biceps slip (slip) および tensor propatagialis brevis (TPB) の形態とその進化過程に着目し、それらの発達や形が各鳥種の生息地や飛翔形態とどのように関係しているのかを明らかにすることを目的とした。本研究では、20種の鳥類を対象に、slip および TPB の有無、および TPB の形状を楕円フーリエ法による形状解析で定量した。これらの結果を 基に、slip および TPB の有無と環境要因の関係をロジスティック回帰により解析した。また、TPB の形状の違いがどのような生態的要因と関連するのかを、鳥類の系統関係を考慮した解析(PGLS)および考慮しない解析(GLM)の両面から検討した。ロジスティック回帰分析の結果、生息地と飛翔形態の両方が slip および TPB の発達に影響を与えることが示され、特に複雑な生息環境であると考えられる 森林環境 に進出した鳥類でこれらの筋肉が発達していた。一方、系統を考慮しない GLM の結果、TPB の形状は幅が大きいほど障害物の多い環境に適応していることが示され、翼の操縦性に寄与する可能性が示唆された。また、PGLS の結果、これらの変異はすべて系統関係で説明され、TPB 形状の進化イベントは稀であり、生息環境等の効果は系統レベルでの進化によって説明されることが示唆された。本研究により、鳥類の翼の操縦性を高める筋肉は生息環境や飛翔形態に応じて発達する可能性が示された。特に、TPB の形状が障害物回避に寄与していることが示された一方で、進化的な変化の頻度が低いことも明らかとなった。


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