| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-065 (Poster presentation)
動物は常に捕食の危機に晒されているために多様な対捕食者防衛をもつ。このうち体色による防衛は非常に多くの分類群でみられ、カエル類もその一つである。これまでのカエル類における体色による防衛の研究は光量が制限される森林に生息する種を対象としたものが多く、光量が多く捕食者の視覚による餌探査が容易になる開放環境での研究はほとんどみられない。国内では多くの両生類が生息する開放環境である水田において、生息するカエル類の体色の機能に関する研究は非常に乏しい。そこで本研究では、水田性カエル類の体色による防衛を調べるため、ニホンアマガエル(Dryophytes japonicus)の体色変化およびトノサマガエル(Pelophylax nigromaculatus)の背中線が捕食回避に与える影響を検証した。ニホンアマガエルについては、体色の変化が捕食者からの検出を低減させるかを評価するため、2タイプの体色の波長を測定し背景色とのコントラストを解析するとともに、粘土模型を用いた野外実験を行った。また、トノサマガエルについては、背中線が捕食回避に寄与するかを検証するため、粘土模型を用いた野外実験を実施した。結果、ニホンアマガエルは葉や土の色に近い体色に変化しうり、鳥類からは土を背景としたとき茶色のカエルが、哺乳類からは背景に関わらず緑色のカエルが検出されにくい傾向がみられた。しかし、模型実験では、体色を背景色に合わせることの鳥類・哺乳類からの攻撃を有意に減少させる効果はみられなかった。また、トノサマガエルの背中線の有無は、哺乳類からの攻撃の頻度に有意な影響を与えていなかった。以上の結果から、水田性カエル類における体色変化や背中線の捕食回避戦略として機能を証明することはできなかった。特に、ニホンアマガエルの体色変化は、捕食回避よりも体温調節や水分蒸発の防止といった生理的機能が主な役割であるのかもしれない。