| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-066 (Poster presentation)
無脊椎動物の行動は温度に応じて可塑的に変化する。例えば捕食行動のうち、餌の消費速度や移動速度は低温時に低下することが多い。しかし、温度条件が餌選択や捕獲戦術(待ち伏せか探索か)などから構成される捕食者と被食者の相互作用に与える影響を包括的に調べた研究はほとんどない。本研究では、温度条件が捕食者の行動および捕食-被食相互作用の帰結に及ぼす影響を多面的に検証することを目的として、海産巻貝の3種系(捕食者1種、被食者2種)を対象に行動実験を実施した。
捕食者のヒメエゾボラ(ヒメ)は待ち伏せ戦術と探索戦術を使って貝類を捕獲することが知られている。被食者には、高頻度でヒメに捕獲される小型巻貝のアオモリムシロ(ムシロ)とヤマザンショウガイ(サンショウ)を用いた。ムシロとサンショウは異なる対捕食者戦術を示す。例えば、ムシロはヒメの攻撃に対して形態的に脆弱だが、活発な回避行動を示す。一方でサンショウは頑丈な貝蓋をもつため、ヒメの攻撃に長時間耐えることができる。
本研究では2つの温度条件(低温条件:5℃、高温条件:15℃)を設定し、春季に低温条件、夏季に高温条件の実験を実施した。ヒメを1日静置した後に、被食者2種をそれぞれ5個体導入し、最初の捕食が発生するまでの行動を動画で撮影した。動画から、ヒメが捕獲した餌種、捕獲戦術、処理時間、処理に成功したか否かを記録し、これらを温度条件間で比較した。
温度条件の違いは捕獲戦術と処理時間に影響を及ぼした。低温条件では探索による捕獲頻度が62.5%(20/32例)であり、47.4%(18/38例)の高温条件よりも有意に高かった。低温条件におけるムシロの平均処理時間は3.38時間、サンショウの平均処理時間は低温条件で63.46時間であり、高温条件(それぞれ1.98時間、22.77時間)よりも有意に長かった。一方で捕獲した餌種と捕食成功率は温度の影響を受けなかった。発表では、被食者の温度依存的な行動についても紹介する。