| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-067  (Poster presentation)

福島県内におけるキジの行動圏調査【O】
Home Range Study of Green Pheasants in Fukushima Prefecture【O】

*小松仁(福島県環創セ), 神田幸亮(福島県環創セ), 村上貴恵美(福島県環創セ), 萩原陽二郎(いであ株式会社)
*Hisashi KOMATSU(Fukushima Env. Creation Center), Kousuke KANDA(Fukushima Env. Creation Center), Kiemi MURAKAMI(Fukushima Env. Creation Center), Youjiro HAGIWARA(IDEA Consultants, Inc.)

 東京電力福島第一原子力発電所事故に起因し、福島県内では狩猟対象鳥獣において放射性セシウムが検出されており、出荷制限が課されている。近年、キジの放射性セシウム濃度は食品基準値(100 Bq/kg)を大幅に下回る水準まで減衰しているものの、依然として出荷制限が継続されている。国が定める出荷制限解除の条件として動物の移動性を考慮する方針を示しているため、キジの出荷制限解除を検討する上で、その移動範囲を把握する必要がある。そこで本研究は、キジの行動圏を明らかにすることで、出荷制限解除の検討に資する知見を得ることを目的とした。
 キジの捕獲数とモニタリングデータが豊富な福島県二本松市において、令和3年から5年の11月にキジ雌個体4羽を捕獲し、GPS発信器を装着した後放鳥した。データ取得期間は狩猟期間である11月から2月までの4ヶ月間とした。行動圏サイズの算出には、最外郭法及び固定カーネル法を用いた。
 最外郭法により推定した行動圏サイズは、0.02km²から0.07 km²であった。固定カーネル法による行動圏サイズは、99%行動圏で0.02 km²から0.11km²であった。キジは阿武隈川河川敷にモザイク状に分布する高茎草地や竹林、堤内地における畑地と隣接する低木が疎らに生育する高茎草地を含む地域を利用していた。
 本研究で調査したキジ4羽の行動圏サイズは、最大でも0.1km²程度であり、調査期間である11月から2月の4ヶ月間において、捕獲場所周辺の限定された範囲を利用していたことが明らかになった。この結果は、キジが広範囲に移動する可能性は低いことを示唆し、高濃度の放射性核種に汚染された原発周辺地域から、比較的汚染の少ない会津地方等への個体移入の可能性は低いと考えられる。二本松市におけるキジのモニタリング調査では、食品基準値を超える放射性セシウム濃度を示す個体は確認されておらず、本研究の結果と併せて考えると、二本松市においてはキジの出荷制限解除の条件を満たす可能性が示唆される。


日本生態学会