| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-068  (Poster presentation)

野生動物へのヒトの恐怖はペットの同伴や時間帯の変化に影響されるのか?【A】【O】
Does animal fear toward humans vary with the presence of pets and between day and night?【A】【O】

*広部康太, 先崎理之(北海道大学)
*Kota HIROBE, Masayuki SENZAKI(Hokkaido Univ.)

非消費型効果は、捕食リスクに駆動される被食者の行動や形態の変容のことである。多くの捕食者が非消費型効果をもたらすが、中でもヒトとそのペットの活動は、自然界の捕食者よりも大きな非消費型効果を様々な野生動物にもたらす。従来の研究から、被食者がヒトとペットの姿を見たり、その声を聞いたりした際に非消費型効果が生じることがわかっている。一方、被食者によるヒトとペットの視覚的および聴覚的認識がどのように相互作用して非消費型効果の大きさを決めるのかについてはわかっていない。そこで本研究では、ヒトとペットによる非消費型効果が、これらの視覚情報のみが存在する場合と、加えて聴覚情報が付加された場合とでどの程度異なるのかを検証した。具体的には、ヒトと代表的なペット動物であるイヌの視覚・聴覚情報が、ヒトの狩猟対象種であり、イヌの潜在的被食者であるエゾシカの警戒開始距離(AD)と逃走開始距離(FID)に与える影響を調べた。2024年8~12月に、北海道胆振・日高・石狩地方で、視覚情報2つ(ヒトのみ・ヒトとイヌ)と聴覚情報4つ(ヒト・イヌ・ホワイトノイズ・音声なし)の組み合わせの計8条件におけるエゾシカのADとFIDを測定した。計236回の測定の結果、ADはヒトとイヌの視覚情報に聴覚情報を付加しても同程度であったが、FIDはヒトとイヌの視覚情報とヒトの聴覚情報を組み合わせた場合に最も大きく、聴覚情報の付加が加算的に非消費型効果を増幅することが示唆された。この結果は、警戒はリスクがあれば行われること、逃走は情報量に応じた非線形なリスクの強弱に応じて行われること、ヒトとペットの非消費型効果は視覚・聴覚情報の組み合わせに大きく左右されることを示唆する。本研究から、野生動物に対するヒトとペットの非消費型効果を緩和するためには、ペットの同伴を制限したり、ペットを同伴する場合でも会話やペットの発声を減らしたりすることが重要であることが示唆された。


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