| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-069  (Poster presentation)

深層学習による鱗食魚の利きに基づく捕食戦略の解明【O】
Elucidation of predation strategies based on the laterality of the scale-eating cichlid fish using deep learning【O】

*小池魁, 福富又三郎, 竹内勇一(北海道大学)
*Kai KOIKE, Matasaburo FUKUTOMI, Yuichi TAKEUCHI(Hokkaido Univ.)

 捕食者は効率的に獲物に到達できるよう、その捕食行動には精巧なパターンが進化してきたと考えられている。アフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食性シクリッドPerissodus microlepis(以下、鱗食魚)は、他の魚の鱗を剥ぎ取って摂食するという、ユニークな食性を示す。本種は個体ごとに口の開く方向が左右どちらかに偏っており、それと一致する襲撃方向の利きを持つ。これまでに、鱗食魚の動きのみに着目した捕食行動の解析が行われていたが、実際は獲物の動きに応じた捕食戦略が想定される。
 私たちは先行研究の映像データを対象に、獲物(キンギョ)の鱗を剥ぎ取る鱗食魚の行動シーケンスを解析した。深層学習(DeepLabCut)を用いて、鱗食魚と獲物の体軸上の座標5点を各フレームで算出し、獲物に対する捕食者の動きを接近と胴の屈曲の2つのフェーズに分けて詳細に再構築した。
 まず、獲物への接近開始時において、形態から判断した鱗食魚の右利きはすでに獲物の右側に、左利きは獲物の左側に位置していることが多かった。これは獲物を襲う意志決定において、自らの利きと獲物の位置関係が重要であることを意味している。 次に、接近開始時の獲物との相対位置と接近の軌跡によって、獲物の左右後方45度を境界として、捕食行動に2タイプ(後方接近・側方接近)あることを見出した。すなわち、後方接近は獲物背後の遠距離から接近して直近から屈曲する戦略、側方接近は獲物横方向の比較的近距離から接近して突進する戦略と考えられた。また、後方接近は捕食者の屈曲開始が獲物の逃避開始より早い時に成功しやすいことも分かった。
 獲物との個体間距離によって異なる捕食戦略を示す例は他魚種でも報告があるが、鱗食魚の場合は接近開始の角度で明確に分類できた。これは、鱗食魚の摂食対象が獲物の体側にあるため、獲物の角度を含めた位置関係が捕食成功により重要であると考えられる。


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