| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-073  (Poster presentation)

ゼブラフィッシュは経験をもとに考え未来を予測できるのか【A】【O】
Can zebrafish plan for the unexperienced future by thinking based on experience?【A】【O】

*野田真舟, 村上正志(千葉大学)
*Mashu NODA, Masashi MURAKAMI(Chiba University)

自然界では、生物個体をとりまく環境や状況が刻々と変化し、生物はこれに適応する必要がある。未来を予測しそれに基づいて行動を選択する未来思考は、生物にとって重要な要素となる。霊長類やカラス科鳥類を中心に研究が進められているものの、学習単独の効果と未来思考を明確に区別した実験はなく、非ヒト動物が未来思考を持つかどうかは依然として不明である。そこで本研究では、未来思考を「獲得経緯の異なる複数の情報を組み合わせて活用し、未来のために行動すること」と定義し、ゼブラフィッシュ Danio rerio を用いてこれを調べた。ゼブラフィッシュは脳構造がヒトと類似し、行動実験の個体数を確保しやすいため、本研究に適したモデル生物であると考えられる。学習単独と未来思考を区別できる実験デザインを構築し、統計的に厳密な評価を行なった。実験では、水槽に3つの区画 A、B、C を設定し、区画 A と B の間に可動式の仕切り AB を、B と C の間に固定式の仕切り BC を設置した。まず学習段階では、「区画 C に提示された物が仕切りAB設置10分後に区画 A に来る」というルールを繰り返しゼブラフィッシュに学習させた。その後の測定段階では、実験群では区画 C に餌を、コントロール群ではブロックを提示し、仕切り AB が設置される前にゼブラフィッシュがどの区画へ移動するかを観察した。もしゼブラフィッシュが未来思考できるならば、餌が区画 A に来ることを予測し、仕切りが設置される前に区画 A に移動するはずである。結果、餌提示条件では 8/12 個体が仕切り設置前に区画 A に移動したのに対し、ブロック提示条件では 1/12 個体のみであり、有意な差が認められた。このことから、ゼブラフィッシュには未来思考の能力が備わっていることが示唆された。


日本生態学会