| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-075  (Poster presentation)

紫外線による羽毛の退色量はポルフィリン色素量を反映する【O】
Feather color fading reflects its porphyrin content【O】

*長谷川克(石川県立大学), 新井絵美(地球研), 伊藤祥輔(藤田医科大), 若松一雅(藤田医科大)
*Masaru HASEGAWA(Ishikawa Pref Univ), Emi ARAI(RIHN), Shosuke ITO(Fujita Health Univ), Kazumasa WAKAMATSU(Fujita Health Univ)

色素色は動物界に溢れている。その進化的・生態的特徴は主要色素の特性に起因すると仮定されることが多く、実証研究ではカロテノイド色素色、メラニン色素色など、それぞれの主要色素の特性ありきで研究を進める傾向にある。しかしながら、色の発現が主要色素だけでなく、その他のマイナー色素にも依存することを踏まえると、色素色の特徴もこれまで無視されてきたマイナー色素の特性を反映している可能性がある。本研究では、鳥の羽毛に含まれるポルフィリンというマイナー色素に着目し、ツバメ(Hirundo rustica)にみられる季節的な羽毛の退色という生態的特徴との関連性を調べた。紫外線照射実験を行なったところ、ツバメのフェオメラニン色素色の退色はヒナの羽毛で特に顕著であることがわかった。次に、実験条件下の羽毛に含まれる色素量を分析することで、主要色素であるフェオメラニンではなく、プロトポルフィリンIX色素の消失量が同様の年齢依存的なパターンを示すとわかった。実際、観察された年齢依存的な羽毛の退色は羽毛中に含まれるポルフィリン量によって統計的に説明することができた。本研究はマイナー色素であるポルフィリンが季節的な羽毛の退色という羽毛の生態的特徴をもたらす要因となっていることを示唆している。ヒナの羽色は巣立ち前後のわずかな期間にのみ親の給餌量に影響し、その後は捕食圧に晒されるだけであるため、(紫外線に弱い)ポルフィリン色素による急速な羽毛の退色はヒナにとって有益だろう。マイナーだが進化的・生態的機能をもつこうしたマイナー色素に今後目を向けていく必要がある。


日本生態学会