| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-076 (Poster presentation)
動物の中には集団を形成して生活し、他個体に対して協力的に振る舞う種がいる。集団のメンバーが非血縁者で構成される場合、一部の個体が繁殖を独占するといった強い社会的制約や、捕食圧などの理由から集団から離れて生存できないといった強い生態的制約が、協力的な社会集団の出現要因であると考えられている。これらの制約の強さは、繁殖資源や生息地の質によって変動し、集団の社会構造や維持機構を変化させると考えられる。しかし、これらを実際に検証した例はほとんどない。クマノミ亜科魚類は非血縁者による集団で生活し、体サイズに基づく厳格な順位制に従う。また、繁殖個体は上位2個体のみで、最大個体が雌、2番目が雄となる。しかし、イソギンチャクが豊富な愛媛県愛南町室手海岸での調査から、その場所のクマノミAmphiprion clarkiiの雌は異なるイソギンチャクにいる複数の雄を訪れるという、一妻多夫的な行動を示す一方で、一夫一妻の婚姻形態は保たれることが分かった。そこで、イソギンチャクの豊富さがクマノミの社会構造に与える影響を明らかにするとともに、非繁殖雄の集団内における役割に焦点を当て、各個体の行動を評価した。通常の一夫一妻に比べて、一妻多夫的な行動を示す雌は、多数のイソギンチャクと未成熟個体を囲っていた。また、一妻多夫的な行動を示す雌は、自身よりも大きな雄と繁殖する傾向にあった。雌と繁殖雄は卵保護や対捕食者防御など協力的な行動を頻繁に行っていた。一方で、非繁殖雄は協力的な行動を示さず、雌に対して劣位行動を多く行っていた。以上より、イソギンチャクの豊富さは順位制の緩和をもたらすこと、多数のイソギンチャクを保有する雌は非繁殖雄に社会的圧力を与え、非繁殖雄は服従的に振る舞うことで集団内に留まり繁殖機会を待つことが示唆された。