| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-077 (Poster presentation)
動物園や水族館などの動物飼育施設は、種の保存、環境教育、調査・研究、レクリエーションの4つの意義を持つ。これらの役割を果たすためには、動物が心身ともに良好な状態であることが不可欠であり、飼育施設は動物福祉の向上を最優先事項としている。動物福祉の向上のためには、1日を通した詳細な行動観察、特にストレスの指標となる常同行動の把握および分析が重要である。また、睡眠や遊びなどの行動が常同行動を減少させる可能性があるため、行動間の関係も調べる必要がある。さらに、行動の現れ方や影響には個体差や性差が影響すると考えられる。しかし、過去の研究ではサンプル数が少ない、あるいは十分なサンプル数を得るために異なる飼育施設間で比較しているため、環境の影響と個体の特性による影響が分離できていない可能性がある。
そこで本研究では、常同行動と他の行動の関係、行動の性差、個性の影響を調べるため、同一の条件下で飼育されている16頭のヒグマを対象に、4日間にわたって日中の詳細な行動を記録し、行動生態学的な解析を行った。解析の結果、記録した行動の約半数で性差が認められた。例えば、休息はオスで多く、常同行動はメスにおいて多かった。また、混合モデルの級内相関係数を調べたところ、休息や採餌などで行動の一貫性、つまり個性が認められた。さらに、各行動間の関係性を調べたところ、いくつかの行動の組み合わせで相関が認められた。特に、休息と常同行動には強い負の相関があった。これらの結果から、同じような飼育環境で生活していても、ヒグマの行動は性別や個体ごとに異なることが明らかとなった。さらに、ある行動は他の行動と関連しており、飼育を工夫することで望ましい行動を引き出せる可能性が示唆された。例えば、快適な休憩場所を作ることで常同行動を減少させられるかもしれない。個体差や行動間の関連性を分析することにより飼育動物の福祉向上が期待できる。