| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-079 (Poster presentation)
動物が体表や巣に生物遺骸や分泌物,無機物を取り付ける行動は装飾行動と呼ばれ,昆虫類やクモ類,鳥類など多くの分類群で認められる.動物は装飾を纏うことで外部形態を変化させ,捕食回避や採餌効率の向上といった利益を得る.一般に自身の形態を可塑的に変化させるには多くの時間を要するが,装飾の着脱は外部形態の迅速な変化を可能とする.
水生昆虫のトビケラ幼虫は,大半の種が植物片や砂粒を用いて筒巣と呼ばれる巣を造り,その中に入って生活する.河床に固着して流下昆虫を摂食するキタガミトビケラは,筒巣をさらに植物片で装飾することが多い.装飾は餌捕獲効率を向上させることが認められているものの,高流速下では認められていない.本種の装飾量は,低流速環境に生息する個体ほど多い.これらのことから,本種は低流速環境ほど装飾量が多いことが有利であり,個体は生息場の流速に応じて装飾量を能動的に改変している可能性がある.
回流水槽内に装飾をすべて除去したトビケラ個体を定着させ,低流速条件(16 cm/s)で3~10の疑似装飾片(ココナッツ繊維片)を筒巣に装着させた.装飾片の装着後は低流速条件に30分間暴露した後,高流速条件(50 cm/s)に30分間暴露した.その結果,低流速暴露時には4%,高流速暴露時は37%の装飾片が剥離した.装飾片の剥離は,個体が自身で装飾片を引き剝がして抱え込み,数秒間吟味してから手離す行動によるものが49%を占めた.低流速暴露時にこのような能動的な取り外しを行った個体は10%で,高流速暴露時には50%であった.以上の結果から,本種の装飾量は生息地の流速によって可塑的に変化すること,装飾量の可塑性は水流による受動的な剥離に加え,トビケラ自身の能動的な取り外し行動によって生じることが明らかにされた.トビケラは生息環境に応じて装飾量を能動的に改変し,外部形態を好適な状態に調整していると考えられる.