| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-081  (Poster presentation)

三陸沖で繁殖するオオミズナギドリにおける採餌域の年変化【A】【O】
Annual change in the foraging area of breeding streaked shearwater in Sanriku area【A】【O】

*長谷川隼也, 原田和輝, 上坂怜生, 坂本健太郎, 佐藤克文(東京大学)
*Shunya HASEGAWA, Kazuki HARADA, Leo UESAKA, Kentaro Q SAKAMOTO, Katsufumi SATO(The University of Tokyo)

  地球温暖化は多くの生物の分布や移動に影響を及ぼし、特に海水温の上昇は海洋生態系に大きな影響を与えている。海鳥は海洋生態系の上位に位置しているため、海水温の上昇により、海鳥の餌生物である小型魚類などを含む各栄養段階の生物分布が変化し、それらを捕食する海鳥も間接的に海水温上昇の影響を受けていることが予想される。日本周辺には様々な海鳥が生息しており、そのひとつにオオミズナギドリCalonectris laucomelasがいる。本種は春〜秋に日本の島嶼で繁殖し、巣と採餌場を往復する中心点採餌を行う。岩手県船越大島で繁殖する本種の採餌域は、従来、三陸沿岸域から北海道の南部に至る海域であるとされてきた。そこで本研究は、海水温上昇がオオミズナギドリの採餌域に与える影響を明らかにすることを目的とし、近年の採餌域を先行研究と比較することで年変化を考察した。
  2023年と2024年に、船越大島で繁殖するオオミズナギドリ(n = 32)からGPS記録計によって経路データを取得した。その結果、半数の個体(n = 16)の採餌経路が北方領土周辺まで達していた。雌雄の割合はメス個体が約31%、オス個体が約69%であり、オスの方が繁殖コロニーより遠くまで採餌に行っていた。また採餌域を推定するFirst-passage time解析により、雌雄共に北方領土周辺でも採餌を行なっていると推定された。以上の結果は、船越大島で繁殖する本種も海水温上昇の影響を受けており、近年、北方領土周辺海域が採餌域として重要になっていることを示唆するものである。ミズナギドリ目の鳥類では毎年同じ場所で繁殖することが知られており、採餌域が遠くなると、それに伴い移動コストが増加する。今後も海水温は上昇するとされているため、船越大島で繁殖する本種の採餌域はさらに遠方へ拡大する可能性がある。


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