| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-082 (Poster presentation)
コウモリは生息地に応じ,適切なねぐらを選択することで様々な恩恵を得ている.多くのオオコウモリ属は集団でねぐらを利用するが,単独でかつ日ごとにねぐらを変えるのは3種のみである.沖縄島に生息するクビワオオコウモリはその一種であり,独自のねぐら選択戦略を持つと考えられる .本研究ではバイオロギングの手法を用いねぐら選択に関して要因となり得る,日ごとのねぐら間距離,総移動距離,ねぐらの土地利用の割合をGPSデータから算出し季節ごとに雌雄性成熟度で比較を行った.調査は2022年から3年間,琉球大学構内で計6回実施し,生活史に合わせて妊娠期(1~4月),哺育期(5~7月),分散期(8~12月)に区分してデータを取得した.
データから,46個体,計132日間のねぐら間距離を算出でき,全体の82.5%でねぐら移動が確認され,うち90.7%が1km以内の移動であった.季節間における比較ではどの時期においても雌雄・性成熟度による差はみられなかった.総移動距離は同じく46個体,計180日間で計測したところ,妊娠期には妊娠個体の移動距離が有意に小さく,分散期には雄個体が雌個体より有意に大きくなったが,総移動距離とねぐら間距離との間に相関はみられなかった.ねぐらの土地利用はどの時期においても亜成獣雄は森林,成獣雌は琉球大学構内をねぐらとして利用し,その他の雌雄・性成熟度においては,妊娠期と分散期になると哺育期に比べて琉球大学構内をねぐらとして利用する割合が増加した.
琉球大学構内にはオリイオオコウモリの主な餌となるガジュマルが多数植えられており,餌場を効率よく周回するため,琉球大学を中心とした短距離のねぐら移動が頻繁に行われたと考えられる.また,ねぐらの土地利用に季節性がみられたことから,餌となる他の樹種の結実状況に応じて柔軟にねぐら場所を変える可能性も考えられる.本研究の結果は,他種との比較を通じて,オオコウモリのねぐら選択特性の解明に貢献すると期待される.