| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-083 (Poster presentation)
有明海は国内最大規模の渡り鳥の越冬地として知られ、シギ・チドリ類のほか、多数のカモ類も飛来する。とりわけラムサール条約登録湿地である東よか干潟や肥前鹿島干潟を有する有明海北部においては、野生鳥類の保全は重要である。一方、有明海は日本最大のノリ養殖地域であり、有明海の北に位置する佐賀平野は日本でもっとも耕地利用率が高い地域でもある。そして近年、カモ類によるノリやムギの食害が問題となっており、生物多様性保全と農水産業振興の両立をはかることが求められている。佐賀県のノリ養殖地やムギ栽培地においては、猟友会による有害鳥類の個体数調整が行われているが、農水産物に直接的な被害をもたらしているカモ種に関しては正確な定量データが不足している。そこで本研究では、有明海周辺の農地およびノリ栽培地を利用するカモ類の食物利用を明らかにするため、2021年度と2022年度の冬季に有害鳥類として駆除されたカモ類の胃内容物を確認し、各種の食性を調査した。解析に用いたカモ類はカルガモ、マガモ、ヒドリガモ、ホシハジロ、コガモ、オナガガモ、ヨシガモの7種であり、うちマガモ、ヒドリガモ、ホシハジロ、オナガガモ、ヨシガモからノリが検出された。有明海上にて採取された個体の胃からムギやダイズが確認されたことから、カモ類はムギ圃場とノリ養殖地を移動して採餌していると考えられた。また、2023年1月と2月に有明海ノリ網とその周辺の調整池にタイムラプスカメラを設置し、飛来時刻を確認した。その結果、ノリ養殖地では引き潮時や、やや満ち潮時の午後から夜間にかけて多くのカモが確認されたのに対し、調整池では潮位が低くなるほど確認される個体数が少ない傾向があったことから、潮が引き、ノリ網が水面上に現れる際に採餌へ向かっていると考えられた。